粧い
「女史箴図」は東晋(317-420)の画聖、顧愷之が西晋(265-316)の張華の「女史箴」を1節ごとに絵で表したものです。女史は「後宮の女官」、箴は「戒めの文」を意味します。張華が専横を極めた皇后一族を諌めるため自らを女史になぞらえ「女史箴」を著したと伝えられています。その中の第4図は宮中の女官に作法や心得を説く目的を以て描かれています。
かつてノートルダム女学院で世界史を担当しておりました折、顧愷之について同様の内容を説明したことが懐かしく思い出されます。この宮廷の女官が鏡に向かい化粧に余念のない描写がみごとで、その画面に吸い寄せられます。春の訪れが待たれる今日この頃、行事や外出の機会が多くなり、何を装いの基準にしているかと考えさせられる場面に時々遭遇します。調和がとれ、しかも品性と内面を映し出させてくれる粧いをした方に出会った時は幸せを感じ魂が清められる思いがし、自分自身への反省の機会となります。
制服を美しく着こなしている学生、職業人であればその職種にあった服装できびきび働く姿は美しくその方の品格に触れたようですがすがしい気分になります。
お正月の昼下り、山手線で前の座席に静かに腰を下ろされた方にわれ知らず目がゆき ました。本に集中しておられ背筋をピンとはった和服姿の老紳士のたたずまいが一幅の絵のようで私の瞼に今もありありと焼きついています。又、かつて毎朝バス停で出会った一人の女性のことが思い出されます。彼女の立ち姿から職場でのありようが想像され仕事に対する情熱がその服装とたたずまいから感じられました。今日も一日仕事に励もうとする意気込み、そして時と場所を弁えた内面を輝かせる粧いに魅力を感じないではいられませんでした。