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藤の花

シスター ルース 森

 藤の花が美しく咲く季節になりました。藤の花を見ると正岡子規の藤の花十首を思い出します。その詞書から、病が重くなり、作歌の気力も失いがちな子規が、病床から机の上に美しく活けられた藤の花を見て、にわかに歌心をそそられて詠んだものだと分かります。
 一首めは「瓶にさす藤のはなぶさみじかければたたみの上にとどかざりけり」で、目前の藤の花房を純粋に写生したものですが、第三首めは「藤なみの花をし見れば奈良のみかど京のみかどの昔こいしも」で、現実の藤の花の向こうに、藤の花に象徴される古の王朝の美しい情景を見ています。「みじかければたたみの上にとどかざりけり」「昔こひしも」に死が近いことを予感している子規の悲哀と惜別の情がにじみ出ているように感じられ、心を打たれます。 詞書に「物語の昔」とあり、子規が「源氏物語」を読んだことも知られているので、「源氏物語千年紀」を祝った今、今年の藤の花には特に心が引かれます。
 2、3日前の新聞から、今年は、フランス人で、宗教心のあつい哲学者、シモーヌ・ベイユの生誕百年の年であることを知りました。また、その記事から、彼女がレジスタンスの同志を思いやって餓死したこと、そして、「労働者たちは、パンよりも詩を必要とする。その生活が詩になることを必要としている。永遠からさしこむ光を必要としているのだ。」と、書いていることも知りました。
 子規の藤の花の連作に透明な気品が見られるのは、この「永遠からさしこむ光」を受けて詠まれたからだと思います。