アイタスカ
　私が何年か滞在し、また、何度か訪れたことのあるアメリカで、最も心を引かれるものの1つはミシシッピー河です。私が住んだセントルイスの修道院はとうとうと流れるミシシッピー河の河畔に立っていますし、教室ではバイオリンを習い始めた幼稚園児が、足の置き場を習ったあと、先生の声に合わせて、「ミシシッピーリーバー」と弦を動かしていました。橋のないところでは大きな筏で車と一緒にこの河を渡りましたし、水をせき止め水位を高くして船を渡すダムも多く見かけました。19世紀半ばに、ドイツからアメリカに呼ばれた私たちノートルダムのシスターたちも蒸気船に乗って、この河を南下し、ニューオーリンズまで宣教の旅をしたことを思いながら、北から南へ蛇行するミシシッピー河を空から眺めて心を躍らせたのでした。
　ある夏、研修会でミネソタへ行ったとき、友人のシスターたちが何人かで交代しながら車を運転して、ミシシッピー河の源流のアイタスカという湖まで私を連れて行ってくれました。湖は古くから原住民が生活した森林の奥深く豊かな水を湛えてひっそりと静まり、湖畔の一箇所が開けて、澄み透った水が1筋さらさらと流れ下っていました。
　ミシシッピー河は私に、幾多の苦難を乗り越えてキリストの教えを示した先輩のシスターたちの勇気と、ミシシッピー河の源流を見たいという私の望みを叶えてくれたシスターたちの友愛、そして、「私が与える水を飲む者は決して渇かない。私が与える水はその人の内で泉となり、永遠の命に至る水がわき出る。（ﾖﾊﾈ4:14）」というイエスさまの言葉を深く味わわせてくれます。