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雑踏のなかで   その一

シスターメリー・パトリシア久野

地下鉄に乗ったとき若い女性が横に座りました。

彼女はバックからいろいろなものを取り出してお化粧を始めました。
目は特に気になるらしく5、6種類のアイシャドウを使って念入りに仕上げていました。
彼女は下車するまでの20分間、ただ小さい手鏡の中の自分だけを見ていました。

「誰のためお化粧しているの」という言葉が口から出そうで困りました。

今から会う人、会社の同僚のため‥‥という返事があるのでしょうが、この電車に乗り合わせている人は彼女にとって何なのかしらと思いました。
彼女にとって『人』ではないのでしょう。ただの路傍の石、ただの風景なのでしょう。
周りには沢山の人々が居たのに、彼女には誰も存在しなかったと同じ事だったのでしょう。

うっかりすると見知らぬ人々を、ただの風景、迷惑な存在として眺めてしまう危険性は、いつでも誰にでもあります。

テレビ・新聞では毎日、色々な災害で苦しんでいる人々の姿が報道されています。
それがいつの間にか見なれた一つの風景になってしまわないように、その一人一人の人生の重みと痛みを感じられる心を持ち続けられますようにと願っています。