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心から

シスター ルース 森

心から
  昼の暑さがまだのこる夏の夕方、私は急ぎの手紙をだしにポストへ行こうとしていました。ちょうど道をまがろうとしたとき、私の前を横切って、子供とその母親らしい女性がつづいて自転車を走らせて通り過ぎました。後に「お先に」という女性の小さな声が私の耳にのこり、女性の心遣いがやさしく伝わってくるように感じたのです。
  修道院へ帰るみちで、ご近所のご夫妻がでかけるところに出会いました。見かけるだけで、まだいちども言葉を交わしたことのない方々でしたが、目が合って、お互いに「毎日、暑いですね。」「お大事になさってくださいね」と、「暑さ」のおかげで、思いがけなく、言葉をかわすことができ、心からいたわりあえたことを、ほんとうに嬉しく思いました。
  この2つのささやかな出会いは、自分では目だけしか動かすことができなかった詩人、「瞬きの詩人」とよばれた水野源三の「有難う」という題の「物が言えない私は/ 有難うのかわりにほほえむ/ 朝から何回も微笑む/ 苦しいときにも悲しいときにも/ 心からほほえむ」という詩と、写真でみた彼の美しく澄んだ目と、さわやかな微笑みが心に浮かんできました。心の大切さを学んだ夏の1日でした。