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シスター ルース 森

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  ある土曜日に、一人の友人が出品している油絵を見に、ある展覧会場にいきました。20点ぐらいの大作が並ぶ会場の絵と、タイトルと作者名をていねいに見ていって、赤を主調とした立体感のある力強い作品に目がとまりました。「ヨーロッパのある修道院の礼拝堂の柱頭の彫刻」とあり、製作者が私の友人でした。十字架を手に、刑場におもむくキリストの姿をえがいた絵です。私は、80歳をゆうにこえる、控えめな女性である友人のこの力作に感動して、しばらくは動くことができませんでした。
  会場を一巡した後、人のいない会場の中央におかれた大きなベンチに座ると、友人の絵を、すこし距離をおいて、真正面から眺めることができました。ゆっくりと眺めているうちに、青と黄色の光背にかこまれたキリストの顔に引き付けられました。作者はその場のキリストの思いを深く黙想し、そのキリストの心を描こうとしたにちがいありません。絵全体を生かしている、つよい意志と確信、そして、希望に満ちた、そのキリストの表情から、キリストのこころが私に伝わってきて、力づけられるように感じました。
  距離をおいて友人の絵を眺め、作者とキリストのこころにふれた私は、距離を置くことの大切さを学んだように思いました。そして、人と人との関係においても、適度な距離をおかなければ、いちばん大切なもの、いちばん美しいものは見えてこないに違いないと思ったのです。