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「Our Ladies Angel」にて   その一 嘘

シスターメリー・パトリシア久野

昨年のことです。ある会議でアメリカに行きました。会議の後、ノートルダム会のアルツハイマーの方が入居している「Our Ladies Angel」という施設を訪問しました。案内のシスターは、ご自分の友達(M)のところに連れて行ってくれました。

Mはとても喜んで、今まで見ていた写真をぜひ見せたいといってくれました。が、その写真が見当たりませんでした。「今まで見ていたのに」とあちこち捜されましたがどこにもありませんでした。
訪問した4人は机の上、引き出し、本箱、棚など思いつく限りのところを捜しましたが出て来ません。「本当に見ていたのかしら。何かの勘違いなのではないかしら」という思いもチラッと頭を掠めました。でも、「今見ていたのに、あなたに見せたいのに‥‥God help me, Jesus help me」と泣きそうになりながら捜していらっしゃる姿を見ていると、こちらも「イエス様、どこにあるのか教えてください」と祈らずには居られませんでした。

そのようにして随分長い間探しましたが、出てきませんでした。
案内のシスターは「もう帰らなくてはならないので今度来たとき見せてくださいね」となだめ、Mは本当に悲しそうにあきらめられました。私も、「今度見せてくださいね」と言いながら、Mを椅子に腰掛けさせ、横に落ちている膝掛けを拾い上げると、その膝掛けの下からアルバムが出てきました。椅子に腰掛けて写真を見ていたところに私達が行ったので立ち上がり、そのひょうしに膝掛けとアルバムを床に落としてしまわれたのでしょう。それからの皆の喜びようはご想像にお任せします。皆、涙を流さんばかりでした。

その写真には日本人の学生が数名写っていました。そして、Mは「これはあなたでしょう?あなたが来てくれたのね」と。私は一瞬ためらいましたが「そうです」と答えました。Mは「ああ、この生徒が来てくれた。来てくれた」と本当に嬉しそうでした。後で聞くとMは哲学の教授だった方で、そこの大学に留学していた日本の学生を長年お世話なさっていたそうです。
いろいろな記憶がなくなっても楽しかったことはずっと残っているようでした。

私は「そうです」と嘘をつきましたが、「嘘」とは何なのかしらと考えさせられました。
ずっと昔読んだ本に「真理で人を殺す」と言う言葉がありました。

「本当のことだから言って良い」と言う人が居ますが、本当のことだからこそ言ってはいけないこともあることを思いました。