花を活ける 上 ローマの花市
本会のローマ総本部で過ごした5年間(2006-2011)、私は毎週土曜日、花市へ出かけました。聖堂へ花をいけるのは私の大切な仕事の一つでした。
花と向きあう時はいつでも、この花々が幸せと平和を私に感じさせてくれたものです。それは直接、神と対話する貴重な時間でもありました。いけ花を通して私はこの草花と出会い、自分とこの花々との共同作業に取り掛かるのです。1週間、ずっと心に温めてきた祈りをこの花々に託して表現します。聖なる作業で沈黙のうちに花々と夢中になって向きあい語り合いました。
未だ、シスター方が寝静まっている早朝5時過ぎ、修道院のガレージから花市場へ向かうのです。大きな聖堂にたくさんの花を、時と場合によっては8か所ぐらい活けるのですから一日がかりの大仕事ですし、大量の花を購入しなければなりませんでした。
大の仲良しのアメリカ人のシスターラバンが車を運転してくれました。道中、彼女と話すのも楽しみの一つで会話がどんどん弾みます。花を買うに際しては前日から「主よ、何を買い、どういけたらいいか教えてください。」と切実に祈りました。また、花市へ行く道すがら、数多くの歴史を紡いできた街々の風景を車中から眺めるのも魅力の一つで、ローマ史の現場検証をしているようでもありました。
花市には実に多くの国の方々が集まり、活気にあふれています。ローマでもかなり大きな花市ですので、市場内を一回りするだけでも時間がかかります。また、どこでドライヴァーのラバンと会うかも確認しなければ迷子になってしまいます。市場に入った途端、出入口を正確に記憶しておきます。市場を一回りし、自分が活けたいと思う花、そして日曜日の典礼にあった花を選ぶのです。意中の花が見つかり 「この薔薇の花、一束いくらですか」と質問します。色・形その他の単語と文章を一番先に覚えたものでした。道中、何回もイタリア語の復習をし、彼女にもそれを確認したことどもが今は懐かしい思い出となっています。
次第にイタリア語に慣れてきますと「予算がこれだけしかないの。少しまけていただけませんか。」と訊ねるのです。そのやり取りが楽しく、彼らとの交流が密になってきました。時には先方から「これ、おまけ」と言ってサービスもしてくれるのです。その時、「有難う」と微笑みながら心からの感謝を伝えます。ある時は「この花、何と言いますか」と質問もするようになり、愛嬌たっぷりに教えてくれるのです。花を通してのグローバルな出会い、心と心の触れ合いが広がっていくのを感じました。行事の多い秋は、私を虜にした花市の人々の息づかいが身近に感じられローマへの思いが募ります。