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ヴェールを通して  その一  手

シスターメリー・パトリシア久野

アメリカに滞在していたときのことです。

住んでいるところからふた筋ほど西に行くと黒人の方が大勢住んでいらっしゃる地域がありました。その近くで買い物をし、レジに並んでいましたら、空いている私の左手を誰かがそっと持ち上げました。振り返るとお年寄りの黒人の男性が私の左手を持ち上げ手の甲にそっと接吻なさいました。

その方のとても静かな様子にこちらの心もしいんとなり、その方のなさるままにされていました。

あれは一体何だったのかしらと時々思うことがあります。

その方からは、静かな寂しいものが伝わってきたのを記憶しています。そして、こちらもとても静かな優しい気持ちになったのを記憶しています。

ヴェールを着けていましたので、修道者であることは一目瞭然だったと思います。
きっと ヴェールを通してキリストを観て近づいて来られたのでしょう。

一言も言葉を交わさないまま、軽く会釈をして別れましたが、時々その方のことを思い出します。

人の内に神を観るとはよく言いますが、きっとあの方はヴェールを通して神を見ていらしたのではないかと思います。

ヴェールはヴェールを着けている人のためより、それを見る人のためもっと力を発揮するようです。

すべての被造物や出来事を通していつも神を観ていたいと思います。