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名前  その三

シスターメリー・パトリシア久野

ノートルダム小学校の体育祭に行ったときのことです。

遠くから笑顔で近づいて来る女性がいました。
そして「私はAです。子供が今ここの○年生です。私は今、本名の韓国名を名乗っています」と話しかけてきました。
30年ほど前、高校三年の担任をしたときの生徒でした。
そして彼女は本名を名乗るようになった経緯と、その後のことを話してくれました。

高三の個人面談のとき彼女は数日間考え、「自分は日本名を名乗っているけれど、実は韓国籍です」と勇気を奮い起こして言ったそうです。
ところが「あ、そう。どうして本名を名乗らないの」と、拍子抜けのするような担任の反応に驚いたそうです。今のような韓流ブームが来ようなどとは想像もつかない時代のことです。
その瞬間は「そんなことできるはずがない」と思ったそうです。でも後で、「そうか、本名を名乗っても良いんだ。どうして 私は本名を名乗らないのだろう」と思うようになり、大学入学を機に本名を名乗るようにしたそうです。
すると それまでいつも何かを隠しているような後ろめたい気持ち、本当のことがわかったら友達が離れていくのではないかという不安や苛立ちがなくなり、落ち着いて生活できるようになったそうです。自分は自分で良いと自信もでき、 信頼できる友達にも恵まれ、 今はとても幸せですということでした。
こういう話を、体育祭の声援と歓声を背に 運動場の片隅で聞いていました。

本名を名乗れないつらさは当事者でないとわからないのでしょうが、そのつらさにあまりにも鈍感だったことに心が痛みました。
担任の鈍感さ‥‥周囲の無理解さにも関わらず、自分の深い望みを大切にし、勇気を持って一歩を踏み出した彼女は、予想をはるかに超えた多くの幸せを手にしたようでした。

自分が真の自分自身であるため また、人との関わりを真実なものにするため 一歩踏み出す勇気を自分のためにも多くの方のためにも願いました。