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父の姿   その一

シスターメリー・パトリシア久野

その方の息子さんが最近一月ほど、初めての海外旅行をされたそうです。
無事帰国された息子さんの体験を色々聞かせてくださいました。そして最後に「妻には○○、娘には○○のお土産がありましたが私にはないんですよ」とおっしゃいました、「父親は孤独ですね」と言うと「ハッハッハッ」と笑っていらっしゃいました。

随分前に読んだある随筆を思い出しました。
その大学教授はその日、講義がなかったので茶の間で一人 炬燵に入っていたそうです。
そこに中学生の息子が帰ってきて茶の間のふすまを開けて父親を見「なんだ誰も居ないのか」といって向こうに行ってしまったそうです。自分はいったい何なのだろうか。というようなことが書かれていたように思います。

父親の良さがわかるのには時間がかかるように思います。
父親が黙ってみんなを支えているのは当たり前、という感じがあるのかもしれません。
理性と社会の規範の代表のような面があり、多少煙たいのはやむをえないのかもしれません。
私も社会を代表する存在として父親を見ていたように思います。
その父親の大きな暖かい思いを感じ取ることが出来るようになるには こちらにもそれなりの成長が必要なように思います。父親は本来孤独な存在のようにも思います。

ただ、「ハッハッハッ」と笑われた姿のなかに、父親の責任と孤独をしっかりと受け止め、家庭内でのご自分の立場、場所が確立している自信に満ちたお姿を感じました。幸せなご一家と思いました。

人は皆、誰にも代わってもらえない唯一の存在である以上、自分の孤独と責任はしっかりと自分が引き受ける覚悟が必要なのでしょう。その時、他者の孤独と責任に対しても優しくなれるのではないかと思います。