挨拶
言葉で挨拶をする代わりに、印刷した挨拶の言葉を貼ってあるのを見かけました。
その人は一言も発せず、こちらの顔も見ず、ただ品物を渡してくれました。
帰り道、ふと随分前の体験を思い出しました。
その時は、かなり見通しのいい細い、一本道を歩いていました。その道を通っている人は誰もいず、ただ、一匹の猫だけが向うからこちらにやってきていました。その猫はまるで用事があって急いでいるのだと言わんばかりに、まっすぐ前方を見すえて、トットットッとリズムをとりながら急ぎ足に近づいてきました。
なんだか声をかけたくなって、距離はかなりあったのですが「にゃん にゃん」と声をかけてみました。
私と猫の距離がだんだん近づくにつれ、「にゃん にゃん」「にゃん にゃん」と私の声掛けの回数も多くなりました。
すれ違う時も「にゃん にゃん」と声をかけましたらその猫は、それまでまっすぐ前方を見ていたのに、パットわたしの方に顔を向けて、「ニャンニャン」とうるさそうに答え、またすぐ前方に顔を向けなおしてとトットットッとリズムをとりながら去っていきました。
あの猫はかなり遠くから私の挨拶を聞いていたのでしょう。すれ違いざまに、うるさいなあと思いながらも返事をしたのでしょう。
迷惑そうでしたが、その日一日中何だか幸せな気持ちだったのを思い出しました。
ネコでも挨拶をするのですね