「人間らしく生きたいから」
「人間らしく生きたいから」
数年前、年の黙想を世田谷区の上石神井の黙想の家でしました。黙想の最後の日は、
「愛を得るための観想」に当てられます。私は石神井公園に行くことにしました。細長い
池があり、その半分は開発が進んでいる町に面し、他の半分は昔のままの静かな武蔵野の
自然の中に伸びています。木の切り株に飛んでくる野鳥を待って写真機を構えている人と
言葉を交わしたりしながら、鴨たちが群れる池をめぐった後、最後に小さな売店でアイスクリームを買い、杖をテーブルに立てかけている一人のおばあさんの側に座って、一緒にそのアイスクリームを分け合って食べ、折から美しく咲いている桜の花の話をしました。
「人間らしく生きたいから、こうして毎日ここへやって来ているのです。」と、おばあさん
は言いました。
別れの挨拶をする私に、おばあさんは「道筋だから、私の家に寄って行ってください。」と誘いました。「ここが庭の桜の一番きれいに見えるところだから」と、心地よい居間に案内されて、暖かいお茶とお菓子をいただきました。「大学病院の院長だった主人が存命中はたくさんのお客でこの部屋もにぎやかだったけれど、主人が亡くなってからは来る人もなく、20年たって、あなたが始めてのお客です。」と、おばあさんは言いました。
この年の黙想は、私にとって最もよかった黙想の一つになりました。