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夏の日

シスターアン・ミリアム木村

夏の日

 京都五山の送り火が消えると、「夏のお休みもおわりね」と、ひとりつぶやく。このつぶやきが誰かの耳に届いたとしても、声の主が「行く夏を」惜しんでいるとは決して思わないだろう。猛暑が続いてはいても、私の夏は恵みの日々で満たされていたのだから。

卒業生のひとりが久しぶりに顔を見せた。彼女は大学卒業後、自分のやりたいことはこれだと決めてゆずらず、再び専門学校を受験し、真摯な研鑽を重ねて卒業時のコンテストに入賞し、副賞で留学の機会を得て海外に出た。予定の1年を経て、更に次の夢を追い続ける。結婚を考えている相手とも出会った。彼とは国籍が異なる。

彼女の話に耳を傾けながら私は、人はこのように見事に成長するものなのかと、感動と感謝の思いに満たされた。両親と自分との考え方の違いを嘆きながらも、伝統的な京都の旧家に育った人たちへの理解も深い。競争の激しい世界での活躍が果たして可能なのかとの不安も感じる。それでも尚、意欲的に多くの課題に取り組もうとする前向きの姿勢に、私は驚きの目を見張った。数年前、教室の一番前の席で、つまらなそうな顔をして私の授業を受けていた高校生と同じ人物だとはとても思えない。

「じゃあ、元気でね。自分を大切にするのよ。」と送り出そうとする私の目を見ながら、彼女が小さな声で言った。「シスターアンミリアムのりんごのケーキが食べたい。もう一度来るから。」
私は思わず声をあげて笑った。かつて私をちょっとだけ心配させた、あの時の高校生が戻ってきたからだ。

「これが親馬鹿ということなのかな」とつぶやきながら、私はメールを打っていた。
「お菓子を造っておきました。冷蔵庫に入っています。来るときには、あらかじめ連絡してください。」

                        8月17日
                            シスターアンミリアム木村