お客様をお迎えする 上
母の存命中、彼女の誕生日(1月2日)にお客さまをお招きすることがたびたびありました。毎年、年末年始を母の家で過ごそうと、みんなが集まってきます。母はお客様をお迎えするのが大変好きでした。私たちは平素、母がお世話になった方々への感謝を込め、彼らを我が家にお招きする機会を大切にしてきました。
母は、特に親しい外国の方をお招きすることを楽しみにしていたものです。「異国の地で年末年始を迎えることは彼らにとって孤独と郷愁を強く感じるとき」と母は時々私たちに話してくれました。今年も母から何時、「お客様をお招きする」提案があるかと心待ちにしたものです。
お客様ご招待の話題が食卓に上れば、すぐにそれを実行に移します。彼らの都合を聞き、母の誕生日にあわせて、この日を楽しく迎える計画を立てる時はひとしお心が浮き立ちます。私たち自身は母を喜ばせること、そして母自身もお客様をおもてなしすることをとても楽しみにしているようでした。当日車で、お客様をお迎えにあがったことなども今は懐かしい思い出となっています。
当日の朝早くから掃除、料理その他それぞれが役割を分担し、スムーズに準備が進められるよう心を配りました。特に、料理は大変ですが、それも楽しみの一つで、各自の腕の見せ所でもあります。互いに希望のメニューを出し合い、一連の素敵なメニューができあがりました。母に当日のメニューを伝えると大満足のようです。わたしたちは手順よく準備にとりかかったものです。
京都の大料理人で芸術活動の大家であった北大路魯山人(1883-1959)は「器は料理の着物」という言葉を私たちに遺しました。私たちもこの日ばかりは料理と器の両方をひきたたせる演出を試みたいと欲張ります。平素は高価な器を使う機会はほとんどありませんが、この日だけは心ゆくまで好みの食器を選び、料理に似合った器に盛り付けるのです。女性にとってこのような機会は格別で、しかも外国のお客様にお料理と食器の両方を味わっていただくのです。