音
音
人参の葉に生みつけられたモンシロチョウの小さな卵を見つけて来たり、早朝の校庭でカブトムシを採って来たりする、幼いときから昆虫博士というあだなのついた甥がいました。愛知芸大のデザイン科に進学した彼の本物と見まがう昆虫たちの造形を大学祭で見たのも昨日のようです。やがて彼はバイオリンの製作に取り組むようになり、イタリヤのクレモナでバイオリン作りを学ぶことが夢となりました。卒業まじかに、突然、神に召された彼は、1台のバイオリンを完成させていました。通夜の祈りの席で、バイオリン科の友人の1人がそのバイオリンで「アベ・マリア」を演奏してくれました。そのバイオリンは今も演奏会で使われていて、美しく澄んだその音色が、一筋に生きた彼の思いを響かせているようです。
いつの頃からか、私は自分が「自分の音」を探していることに気づきました。そして、最近、1つのささやかな「自分の音」を見つけました。また、ベトナム人の宗教家、ティク・ナトゥ・ハンが「耳を傾けよ…耳を傾けよ…すばらしい音に…本当の自己へと導く音に」と、音によって自分の本当の自己へと沈潜するようにと勧める言葉に出会いました。詩篇139には、「私のもっとも深い自己を造ってくださったのはあなたです」と神に祈る言葉があります。この自分の「本当の自己、もっとも深い自己」が神と出会う場だと私は思います。私たちは皆その場で神と出会うようにと招かれているのだと思います。そして、その場への自分の道を一人ひとりが見つけなければならないのだと思います。