機織
機織
ずっと以前に、機織(はたおり)を習いました。最近、久しぶりに、機(はた)にありあわせの糸を掛けました。舟形の杼(ひ)が縦糸の上をすべる音、杼の中で糸がほどけて軸がたてる音、横糸を寄せる筬(おさ)の音などを聞いているうちに、いろいろなことが思い出されました。機織を教えてくれた人、織機(おりき)が手元に届くまでお世話になった人々のこと、そして、子供のころ1年間、田舎の祖母の家ですごしたこと…
祖母の家の納屋には大きな織機があり、壁際には、蚕の棚があって、黒い小さな幼虫がかすかな音をたてて桑の葉を食べ続け、何眠かくりかえして、大きく透き通った姿に成長し、絹糸を吐いて繭(まゆ)を作りました。夜には茹でた繭から糸を引き出し、糸車に巻き取りました。
2,3日前、寺町通りを歩いていて、東北の手仕事展に出会いました。桜皮細工、菱刺し、あけび細工、籠、馬具バッグ、からむしの織物(越後上布)など、厳しい生活のなかで洗練された生活用品の中に、昔の大福帳をこよりによって横糸にし、絹の縦糸に織り込んでつくった帯がありました。大福帳の和紙に書かれていた筆文字の黒と赤の点々がかすかで自然な模様となっています。東北の長い冬に耐えながら、心に深く沈潜して、手近かなものから生活に役立つ美しいものを作り出すひたすらな精進に感動したのでした。