ユリの花
ユリの花
まだ春浅いころに、私の部屋のベランダのプランターに、修道院の庭からジュウニヒトエを何株か移し植え、また、その株のあいだに野の白ユリの種をまきました。6月になって、ジュウニヒトエの花が終わり、地をおおっていた葉を取りのぞくと、ユリがまだ弱々しい何枚かの葉をだしていました。そして、ゆっくりと育ってゆき、9月の中ごろ、初めての花を咲かせました。茎の丈も低く、花も小ぶりですが、6枚の花びらをしっかりと反りかえらせて精いっぱい咲いています。
修道院の静修の日の前日だったので、初めて咲いたそのユリを切り、小さな花瓶にさして、その晩、聖堂の聖マリアの絵の前に置きました。静修の日の朝、レモングラスの青葉をそえようとして、初めて、昨夜、花瓶に水を入れ忘れていたことに気づき、急いで水をさしました。一晩、水なしで過ごしたのに、ユリは何事もなかったかのように静修が終わる夕方にも、変りなくいきいきと咲いています。その後、私の部屋の祈りの卓に戻ったユリは、私が就寝する前にふと目をやると、思いがけないことに、その花びらを散らしていました。花びらはすっかり薄くなり、すきとおって、ほのかに茶色をおびています。その姿は自分の使命を果たし終えて、安らかに静まっているように見えました。
1本のユリにも物語があること、そして、物にも、人にも、それぞれ豊かな物語があることに気づかされました。それらを大切に受けとめたいと思ったのです。