ヴェールを通して そのニ お布施
修道女になって2,3年目のある日 法然院の側をのんびり散歩していました。
何も持っていませんでしたので手を後ろに組んでぶらぶらと歩いていました。
しばらくすると後ろ手に組んだ手の中に何かがポトンと入りました。見ると十円硬貨が一つありました。振り返ると、一人の中年の男性の目と出会いました。その十円についてどう尋ねたらいいのかわからずぼんやりしているうちに、その方はにこにこしながら通り過ぎて行かれました。
帰って数人の人に話しましたが結局、修道女にお布施としてくださったのでしょうということになりました。ヴェールを着けていましたので修道女とわかったのでしょう。後ろに組んだ手が物を戴くときの手のように見えたのかもしれません。
人通りの多い橋や駅前で、托鉢の鉢を手に佇んでいらっしゃるお坊様の姿を見かけることがあります。
深い闇の心の底から慈悲の心が引き出され‥‥その心がお布施という形になるのではないかと思っています。
お布施は施すのではなく、させていただくものなのでしょう。
無言で佇んでいらっしゃるお坊様の托鉢の姿に、人々の闇の心に慈悲の心が目覚めるのを願う大いなるものの姿を感じます。
内にある善なるものが現れますように。