タゴ蛙
タゴ蛙
太田神社の杜若(かきつばた)が咲き始めたと聞いて、急いで見に行きました。快い
5月の風にそよぐ沢一面の杜若の花の紫を、なにか懐かしい思いで眺めながら時をすごし、最後に何枚かの写真を撮りました。
今年はこのお花見に、もう1つ楽しみが加わりました。奥の山から、お社の脇を通ってくる小さな流れに、渓流に住むタゴ蛙がいて、その鳴き声が聞こえると聞いたのです。
流れに沿って歩くと、ここかしこで鳴く蛙のくぐもった声が聞こえました。岩や石の下や隙間で鳴くことが多いので、姿は見つけにくいのだとか。
私は流れのそばに立つ鳥居の足元の石に腰掛けて、しばらく静かに鳴き声を聞くことにしました。どのくらいたったか、ふと見ると、流れの中央に朽ち葉色の生き物がじっとしています。お腹が横に張りだしたように見えます。タゴ蛙です。そばにいた子供たちも気づいて、「タゴ蛙だ。」、「タゴ蛙だ。」と声をあげました。蛙はすぐにゆっくりと動きだし、私のそばの岩の隙間に入って行って見えなくなりました。後にはここかしこで鳴く蛙の声だけがいつまでも聞こえていました。
古の昔から太田の沢とその杜若を守り継いできた人々、清流に住み継ぐタゴ蛙、今この時を生きている私も、この美しく豊かな自然の一部なのだとしみじみ感じたひと時でした。