水仙
水仙
私のすんでいる修道院の2階の廊下に、床までとどく60センチ幅の細長い明り取りのようなガラス窓があります。毎日、何度も目をやる、奥まったその窓からは、中庭の片すみが細長く切りとられて見えるのです。その景色の真ん中には、クチナシの低木があって、不思議なことに、そのこんもりとした茂みの中から、毎年、水仙が顔をだすのです。今年も何本かの茎と葉がどんどん背たかくのびていって、咲きつぐ花さえ目立つようになりました。私は行って見ずにはいられませんでした。
水仙はクチナシの茂みのなかの幾重にも交差する無数の小枝を巧みにくぐって、3本の茎とたくさんの葉をまっすぐに立て、クチナシの高さの倍の、80センチをこえています。茎の先端から7,8個もの花と蕾を房状につけて、巾4センチもの純白の花からは高貴な香さえ漂わせています。いくたの苦難を明るくのりこえるプリンセスの姿を、私は思い浮かべたのでした。
鴨川に薄氷が張り、しぶきが凍って氷柱ができるほど寒く、また、コロナパンデミックのために、世界中が痛んでいる今年の冬に、この庭すみに咲く水仙は、春はかならずやってくるという確かな希望をかたってくれているようです。