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ルピナス

シスターメリー・パトリシア久野

中学生の時、引っ越した庭に、始めて目にした一輪の花が咲いていました。

30センチほどの高さの一本の茎の上に、紫色の藤のように房になった花が、上を向いて咲いていたのです。葉は天狗の団扇のような形で、下のほうのは大きく、上に行くにしたがって小さくなっていました。その上に、豆の花のようなのが房になって上向きに付いていました。一枚一枚の葉の形と色の美しさ、一つ一つの花の美しさ、それが房になって円錐形に立っている姿の美しさ、光輝いているような光沢のある花、葉と花の絶妙なバランスなどに、ただただ驚き、地面に顔を付けるようにして下から眺めたり、上から眺めたりして感嘆の声を上げていました。

こんな完璧な美しいものがあったのだ、自分が知らない美しいものがまだまだ沢山あるに違いないと思いながら、数日間は驚きの目で見ていました。が、やがて色々な花が咲き、学校も忙しくなり、その花のことは次第に忘れていきました。ただ、その花はルピナスとか、のぼり藤とか言われていることだけは、知識として残りました。

数年後、ある地方に行きました。木立の向こう側が広い畑になっているらしいので、覗いてみると、紫、ピンク、赤、黄、白などさまざまな色のルピナスが一面に咲いていました。

かって、一本のルピナスに感動し、ためつすがめつ飽きることなく眺めていたあの花に、こんなに色々の種類があることに驚きましたが、もっと驚いたのは「あ、ルピナスの畑」と反応しただけの自分の姿でした。

枯葉一枚、石ころ一つにも、驚きの目を向けると、そこから宇宙が広がるのに。
太陽が照るのは当たり前。コスモスの種からコスモスが咲くのは当たり前。

当たり前と思っていることの奥にある「神の手」を感じない恐ろしさを、感じさせられた思い出になっています。

春、今あちこちでルピナスを目にします。