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本当の足

シスターメリー・パトリシア久野

ある研修会に参加しました。

自由時間に一人の青年と雑談しているうちに、交通事故で骨折した足のことが話題になりました。
私はその時、4箇所骨折し、手術しないまま治しましたので、その足は1センチほど短くなっています。また、弱くなった機能を支えるため筋肉が発達して、もともとの足より太くなっています。
写真で見ても分るほど左右の足の太さは異なります。
その青年に言いました。「この細い方が本当の足なんですよ」と。
すると青年は言いました。「どちらも本当の足ですよね」と。

その研修会では自分の傷を眺める作業もありました。
一見しただけでは何の問題もなさそうなのに、想像も出来ないような傷を持っている方もいらっしゃいました。
その青年もそうでした。傷は様々な状況の中で生じてくるのでしょうが、中には全く本人には責任のないところから生じてくるもの、当人は被害者としか言いようのないようなものもあります。それを傷と感じるのは本人の責任というには、あまりに痛ましいものもあります。でも、それも今の自分を培ってきたものと自分を優しい目で眺められるようになったとき、この痛ましい傷も私のものと言えるようになるのでしょう。

異なる歴史を持った左右の足。太さも異なる左右の足。太さが違ってきたからこそ、今まで歩いてこられたのです。「どちらも本当の足ですよね」という言葉の中には都合の悪いものを排斥しようという匂いは微塵も感じられません。

それは、深い傷の痛みを感じていた人が自分の傷さえも優しく、愛おしく感じるようになり、そこからすべての事柄を眺めた時に発する優しい言葉だったように感じました。
自分の存在すべてを受け止めてくれた、大きな愛を体験した人のみが発し得る言葉のように感じました。