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石匕(セキヒ)

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石匕(セキヒ)
  秋も深まった先日、紅葉の散りしく宝ヶ池公園をあるきました。人にも会わない山辺の道を歩いていると、時おり、落ち葉するかすかな音がきこえてきて、いっそう心が静まります。道べの草がひっそりと枯れているところに、何の蔓か、葉のない蔓が何本も地面にのびているのが目に留まりました。私はその蔓を1筋いただいて、リースを作りたいと思いました。教会はちょうど待降節で、キリストの降誕を準備しているのです。私は直径1,2センチくらいの美しい茶色の蔓を折ろうとしましたが、中までじょうぶな繊維のようで、折れません。鋏もナイフも持ち合わせていないのです。
  私はふと石匕のことを思い出しました。何年か前、私の修道院の近くで、弥生時代の遺跡が発掘されて、埋蔵品の土器にまじって、5センチくらいの石匕もあったのです。私は地面に転がっている小石の中から、一つの角がかなり尖っている小石を見つけて、蔓をこすってみました。切れそうです。そして、ゆったりとした時間が過ぎて、とうとう蔓を切ることができたのです。
  その蔓で作ったリースは今、薄紫のローソクとリボンに飾られて、修道院の応接間のテーブルの上で待降節を告げています。2千年前、日本の弥生時代の人々も使ったと思われる石の刀で蔓を切って作ったリースは、2千年前、降誕されたキリストの来臨の恵みをゆっくりと時間をかけて味わうようにと、私に呼びかけているようです。