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時計店

シスター ルース 森

時計店
  2,3日前から、私の小さな時計が動かなくなっていました。電池が切れたのかもしれません。教会や修道院で、クラスやお話をするときに、手の中にもっていて、時間を計るのに使っているので、どこかで早くみてもらいたいと思いながら歩いていると、思いがけず、私のすぐそばに1軒の時計店があるのに気づきました。私はすぐに戸を開けていました。
  あたたかい声にむかえられた店内には、長いカウンタ-の前のせまい通路に、数脚の椅子が座布団をおいて人待ち顔にならんでいて、私はしぜんにその1脚に腰かけていました。私の手から時計を受け取った女主人は、広い仕事部屋の奥にある広い机の向こうがわに正座して、私の時計のフタを開け、「やっぱり電池が切れています。2年前に入れかえたのですね。フタの裏に記録がありますよ。」といいました。「時計屋さんしか見られない記録なのですね。」と、私がいうと、「そうですよ。」と、答える彼女の声には微笑んでいる気配がありました。
  カウンターのそばのガラスケースには、新しい時計もならべられていましたが、店は修理を専門にしているようです。店内のここかしこに、なつかしい品々が飾られているようでしたが、ゆっくりと眺めるひまもなく電池の入れかえは終わって、女主人のあたたかな声に送られて、店を後にしたのでした。まるで、つかの間、故郷を訪ねたような思いが残りました。