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ある人の買い方

シスターメリー・パトリシア久野

数年前の、あるバザーの時のことです。
一巡して休んでいると、布製の筆入れを持った若者が近づいてきました。

貧しい国の人々に、生計が立つようにと筆入れの作り方、刺繍の仕方を教えている。
筆入れはその作品ということでした。
布地と刺繍の配色があまり気に入らず200円のお金を出し渋っていました。
「この色がねえ‥‥」と、手に取って見ているうちに刺繍のビーズが一つ取れているのに気づいて、「ビーズが一つ取れているわねえ」と、言ったりしていました。
すると、側にいた人が、「これ、ビーズが取れていて、売り物にならないわね。ビーズが取れていて可愛いから、これもらうわ」と、笑顔で買いました。
その瞬間、小さくされた者、弱くされた者、顧みられない者のため涙を流していらっしゃる神と、同時に「一片の優しさも、思いやりも無い自分」を感じました。

女が自分の乳飲み子を忘れるであろうか。
たとえ女たちが忘れようとも、私があなたを忘れることは決して無い。
あなたは私の目に価高く、貴いもの。私はあなたを愛する。
                        イザヤ書より

一つの物事の裏にどれほどの努力と苦しみと善意があったかを受け止められる神。
誰からも顧みられないものの悲しみを知る神。
誰からも顧みられない者をも、あなたは私の目に貴いと言ってくださる神‥‥。

このビーズのとれた筆入れをお買いになった方は、今年の夏お亡くなりになりました。
癌で頭髪も眉毛も睫毛もなくなって‥‥それでもなお神の優しさと、ご自分の幸せを語っていらっしゃいました。

この方の優しさと強さにあやかりたいと願いつつ、ご冥福を祈っています。